リハビリテーション医療で活用できる漢方治療:総論
美津島隆
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第33巻・第1号(通巻392号)・2024年1月号
P1358-1366
Key Words:リハビリテーション医療、漢方薬、副作用、フレイル、嚥下障害
本稿では漢方薬と西洋薬を比較して述べられている。漢方治療の対象は生体に現れた症状・症候であり、西洋医学の病因から病理、症状発見のプロセスとは異なる。そのため患者の主訴や症状から漢方薬が選定され、患者に合致した適切な方剤が処方される。これは病気より障害に焦点を当てた治療を行うリハビリテーション医療の考え方と相性が良いと考えられる。
また患者の主訴や症状から病態を把握して処方される漢方薬の利点は、1剤で様々な症状が改善する点が挙げられ、高齢者は特に複数の臓器に疾患を持つことが多く、単剤で様々な臓器に効果をもたらす点は非常に有効的であり、ポリファーマシー対策にも有用である。
しかし漢方薬にも副作用があり、特に消化器症状が多く、西洋薬との併用についても予報内容に注意すべき点がある。漢方薬・西洋薬の処方とリハビリテーション治療の組み合わせにより更なる診療の幅が増えることが考えられ、有力な治療手段としての期待がある。
Ⅰ.はじめに
リハビリテーション医療は患者の全人間的復権を目指すことにある。それは患者の病態に合致した方剤を処方する漢方医学と、患者に対するアプローチの方法からみて共通するものがある。
Ⅱ. 漢方治療とリハビリテーション治療との共通性
現代医学全般においてその対象となるのは「疾患」であるのに対し, リハビリテーション医学の対象は「障害」 である。そして障害とは簡単にいえば、ヒトが日常生活を営んでいく上での不自由さを表している。
すなわちリハビリテーション医学は人間を人間としてふさわしい状態にするという「全人的医療」がその目的であり、疾患自体の治療はもちろんであるが、1人人間としてとらえてそのADL、QOLの向上をその主眼においている。
一方で漢方治療の基本は「証」に応じて治療を進めていくことである。そして漢方治療における「証」とは生体に現れた症状・徴候であり、治療側にとっては治療の手がかりとなる「証拠」である。
Ⅲ. 漢方医学と西洋医学
漢方医学では、原則として西洋医学でいう原因(病因)が生体内に潜在していても症状として生体に顕在化しなければ治療の対象にならない。
漢方医学において血液等の検査結果を解析する能力はないので、血液データの所見等はそのアウトカムにならず、あくまでそのアウトカムは患者から発せられる症状である。
しかし生体から発せられるSOS信号に対して、直接アプローチして生体の内部環境を改善していることは確かなので、漢方治療においては西洋医学に比べて生体自身の治癒力を発揮しやすくしているということができる。
漢方薬は主に中板系ならびに自律神経系に作用してその効果を発揮する。漢方治療における重要点はバランスである。気血水は漢方治療の重要な概念であるが、これはこのトライアングルのバランスが崩れた時に病気が発生するという考えである。
したがって特に漢方薬は生体内の気血水のバランスを保つこと、 またはバランスが崩れたときにそれを改善する効果を発揮し、生体内の恒常性を維持する。
生体内で恒常性を維持する役割を果たすのは交感神経、 副交感神経といった自律神経であり、したがって漢方薬は主に自律神経に働きかけることによって、その効果を発揮するといえる。
具体的には内臓系、 免変系、 ホルモン系 に作用して生体の恒常性を調節する役目を果たす。
Ⅳ.フレイルとサルコペニア
フレイルは疾患に罹患している状態ではなく、その前段階ということになり、これは漢方医学でいうところの 「未病」の概念に近い。漢方医学ではこの未病に対して、補剤とよばれる一群の方剤を投与することが多い。
リハビリテーション治療の中核を担う運動療法を行うためには、その基礎となる栄養面、体力、筋力はもちろん意欲、モチベーションといった気力等も充実していなければならない。
そのための方剤として、六君子湯、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯といった補剤が有効である。すなわち運動療法は、疾患はもちろん普段健康な人においても健康増進のために行われていることから、漢方における 「未病」 への漢方薬の投与からその効果を増すと考えられる。
Ⅴ.漢方薬の副作用
漢方薬では有害事象や副作用が起こらないと誤解している人が多いが、 実際には漢方薬においても副作用はみられる。西洋薬の使用で薬理効果の強い漢方薬と西洋薬を併用すると、頻度が多くないが思わぬ相乗効果として副作用が現れることがある。
漢方薬は大抵2種類以上の生薬からなっている。したがって薬剤がどのような生薬からなっているのか調べておき、その処方について常に注意しておく。また漢方薬は1剤で多彩な効果をもつものがあり、ポリファーマシーの観点からも注目される。
Ⅵ.漢方薬の効果判定と投与期間
漢方薬は副作用が少ないとの間違った認識をされているケースが多いが、臨床症状に改善がみられないときは1カ月くらいが限度で、それ以上投与を続けても効果がないと考えた方がよい。
また臨床症状が改善した場合であっても投与の中止を考えていく必要である。これは、効果よりも長期投与による副作用が重大となることがあり、 定期的に血液検査を施行する。
漢方の服用の時間帯についてはあまり厳密に考える必要はなく、「食間」 とされていても、「食前」「食後」に服用してもさほど効果に差はない。
私が学生時代にはあまり東洋医学について触れられてこなかった印象がある。長年の歴史の中で本当に有効であるものだけが残って現代医療に用いられているということは最大のEBMではないでしょうか。
その中でリハビリテーション医療にも通ずるものがあり、気力や意欲、モチベーションを保つことが更なる相乗効果をもたらすことがわかった。
リハビリテーション医療を行う中で漢方薬の処方が少なくない。西洋薬と同様に長所と短所があり、それぞれを理解した上で、患者のADL・QOLの向上を目指すことが肝心である。
漢方薬は多剤使用にさらされやすい高齢者対策、ポリファーマシー対策として今後も注目されると考えられる。本稿では実際の漢方薬の効果や副作用について触れられており、ぜひ一読していただきたい。
記事:本多竜也