尿失禁の治療 ②薬物治療

(221127配信)

尿失禁の治療 ②薬物治療

松本彩加、吉村芳弘

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第31巻・第9号(通巻372号)・2022年8月号

P848-855


Key Words:薬物療法、薬物有害事象、抗コリン負荷



【アブストラクト】


Ⅰ.切迫性尿失禁 


 切迫性尿失禁において治療の中心となるのは薬物療法である。女性の下部尿路症状診療ガイドラインでは、切迫性尿失禁に対し過活動膀胱治療を行うとされている。中でも抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬は有効成分や安全性が検討されている。


 膀胱平滑筋や膀胱括約筋は自律神経支配であり、以下に示す薬剤はこれら受容体に作用し、膀胱以外の組織に作用することで副作用が現れる。


 本稿では以下(1)〜(10)の薬剤についての特徴や効果、副作用について書かれている。


(1)抗コリン薬

(2)β3受容体作動薬

(3)フラボキサート

(4)α1受容体遮断薬

(5)PDE5阻害薬(タダラフィル)

(6)三環系抗うつ薬

(7)エストロゲン

(8)ボツリヌス毒素

(9)抗利尿ホルモン(デスモプレシン)

(10)漢方薬(牛車腎気丸等)



Ⅱ.腹圧性尿失禁


 標準的治療法には理学療法(骨盤底筋訓練等)、行動療法、あるいは外科的治療がある。また切迫性尿失禁とは異なり薬物治療は補助的療法であり、効果が認められなければ長期の使用は控えるべきである。


 その中で使用されている薬剤にはβ2アドレナリン受容体作動薬(クレンブテロール)があり、尿道括約筋の速筋の収縮力を高め、遅筋の収縮力を低下させることで、膀胱頸部の流出抵抗を上昇させる効果がある。手指振戦や頻脈が副作用である。



Ⅲ.薬剤性排尿障害


 他疾患の薬物治療による副作用で排尿障害、尿失禁を呈することもある。


服用している薬剤による有害反応が新たな症状と誤認されることで新たな処方が生まれ(処方カスケード)、複数の薬剤処方による不利益が生じうる可能性の状況(ポリファーマシー)となり得る。


 特に高齢者では多剤併用状態となることも多く、疑わしい薬剤使用を中止や変更、用法変更等を行う必要がある。


 代表例にコリン作動薬は尿意や排尿筋の活動を亢進させ、αアドレナリン受容体遮断薬は膀胱頸部、尿道の閉鎖機能を低下させ、頻尿、尿失禁等の蓄尿症状を招くことがある。



Ⅳ.高齢者における薬物療法の注意点


 高齢者では薬剤起因性老年症候群があり、ふらつきや転倒、抑うつ、排尿障害・尿失禁等がある。これらは高齢者でよく見られ、薬剤性と気付きにくいことがあり注意が必要である。


 尿失禁治療によく用いられる抗コリン薬を高齢者に使用する場合、加齢により抗コリン分泌能が低下しているため、副作用が顕在化しやすいことから、低用量からの使用開始を推奨されている。



Ⅴ.リハビリテーションで注意する副作用


 抗コリン薬には認知機能低下や口腔乾燥、便秘があり、便秘は嚥下障害や低栄養と関連する。また抗コリン作用は他の薬剤も含めた服用薬剤の総コリン負荷を確認する必要がある。


高齢者リスクの指標としてAnticholinergic Risk Scale(ARS)等がある。


リハビリテーションアウトカムに抗コリンスコアは関連しており、栄養状態や嚥下障害の負の関連が報告されている。



Ⅵ.フレイル・サルコペニアと尿失禁


 フレイルと尿失禁が併存することが多く、サルコペニアは排尿の自立との関連が報告されている。


またフレイルのリスク因子にポリファーマシーがあり、アジア太平洋のフレイル管理の診療ガイドラインには「不適切または不要な薬物を減少または中止することでポリファーマシーに対処する」ことが強く推奨されている。



【勉強となった点】


 高齢者にとって排尿障害と薬剤(多剤併用)、フレイル、サルコペニアは双方向で関連していることがわかり、一つ一つの症状に対して注視しなければならない。


 本稿ではリハビリテーション実施における副作用を及ぼす可能性のある薬剤が一覧になっており、リハビリテーション介入時に気にする内服の確認にも役立つものであり、運動療法のリスク管理に役立てたい。



【最後に一言】


 排尿障害は自宅退院に向けて問題となることも多く、家族であるが故に頼り難いと感じる症例も少なくありません。


起因する要因に薬剤が関連することもあるため、我々セラピストも薬剤への理解を深める必要があり、リハビリテーションアウトカムをより良くする方法の一つです。


 今回は排尿障害に焦点を当てており、紹介できていません、各薬剤の効果・副作用が簡潔に表として掲載されているためぜひ本稿を読んで頂き、明日からの臨床に役立てて下さい。



執筆:本多竜也




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