言語聴覚士の卒前卒後教育とキャリアパス

(230825配信)

言語聴覚士の卒前卒後教育とキャリアパス

内山量史

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第32巻・第6号(通巻383号)・2023年6月号

P541-549

Key  Words:言語聴覚士学校養成所カリキュラム等改善検討会、生涯学習プログラム、キャリアアップ(人材育成ラダー)、多職種連携教育(IPE)



【アブストラクト】


 1997年の「言語聴覚士法」制定に続き、1998年に「言語聴覚士学校養成所指定規則」が定められてから、20年以上改定されることがなかった。しかし現在、厚生労働省による言語聴覚士学校養成所カリキュラム等改善検討会が行われ、一般社団法人日本言語聴覚士協会により2018年「言語聴覚士養成教育ガイドライン」が完成した。


 卒後教育としては日本言語聴覚士協会により2004年度から生涯学習システムが導入され、2008年度から「認定言語聴覚士」制度が設けられた。


 その後のキャリア形成としては2021年度にキャリアアップ(人材育成ラダー)が作成され、言語聴覚士として就業しながら目指す目標を明確にした。


 チーム医療については卒前教育から養成校別に取り組みがなされ、多職種連携教育による、チーム医療の一端を担う医療従事者としての人材育成が必須とされている。 


 医療・医学の進歩や諸制度への位置づけ等、言語聴覚士を取り巻く状況に合わせたニーズへの対応が求められ、言語聴覚士の養成するための新規科目等の追加が検討されている。また日本言語聴覚士協会による「専門言語聴覚士」制度の導入等の生涯学習システム改定が検討されている。



【内容のポイント】


Ⅰ.言語聴覚士の卒前教育について

 

「言語聴覚士法」が1997年に制定され、翌1998年に「言語聴覚士学校養成所指定規則」による最小限の学習内容が定められた。さらに20年以上の時が経ち、令和4年に厚生労働省による言語聴覚士学校養成所カリキュラム等改善検討会が開催され、言語聴覚士の臨床領域拡大に伴う教育内容と総単位数の見直しが行われている。


 また日本言語聴覚士協会により言語聴覚士養成教育モデル・コア・カリキュラム諮問委員会を設け、2018年に言語聴覚士養成教育ガイドラインが完成した。



Ⅱ.言語聴覚士の卒後教育について


1)生涯学習プログラム


 日本言語聴覚士協会は2004年度より生涯学習システムを導入し、ポイント取得、講座履修等の条件を満たし、修了証が取得できる制度である。


①基礎プログラム


 主に卒後3年以内の会員を対象に、基礎講座6講座の履修、学会・研修会への参加等による4ポイント以上の取得、症例検討会での症例検討・発表が修了条件となる。


②専門プログラム


 修了期間の制限はないが主に5年までの会員に向けて、専門講座4講座の履修、学会・研修会への参加や発表・職能活動等による8ポイントの取得を修了条件とする。


2)認定言語聴覚士講習会


 2008年度から「認定言語聴覚士」制度が開始され、受講資格は臨床経験が6年目以上で、かつ、専門プログラムの修了証を取得している会員に対して高度な知識および熟練した技術を用いて高水準の業務遂行が可能な言語聴覚士を養成し、業務の質向上を図り、社会に寄与することが目的とされる。


 現在は「摂食嚥下障害領域」「失語・高次脳機能障害領域」「言語発達障害領域」「聴覚障害領域」「成人発声発語障害領域」「吃音・小児構音障害領域」が開催される。


3)実務者講習会


 2011年度より開催され、現場で求められる実践内容を学ぶことができ、医療保険領域、介護保険領域に従事する言語聴覚士に必要となる知識や技術の取得ができる。


4)地域リハビリテーション活動支援に資する人材育成


 2015年度より地域包括ケアシステム構築に向けて、市町村における介護予防等の事業へリハビリテーション専門職等を活用する支援事業が創設されている。



Ⅲ.キャリア形成について


 卒後教育については上記で述べた生涯学習プログラム、認定言語聴覚士制度、実務者講習会が導入されるが、人材育成については施設や都道府県士会により独自のプログラムであり、統一化がされていなかった。


そのため協会は2020年の春にキャリアアップ(人材育成ラダー)を作成した。


これは就業してから経験を積みながら目標となる項目を明確化しており、キャリア発達ステージをステージⅠ(1〜3年)、ステージⅡ(4〜5年)、ステージⅢ(6〜9年)、ステージⅣ(10年〜)ごとに設定し、期待される能力(臨床実践能力、リーダーシップ能力・マネジメント能力、研究能力、支援指導能力、対人関係能力、自己啓発能力、連携能力、その他の必要とされる能力)について記載している。



Ⅳ.チーム医療に関する教育について


 急速な高齢化に伴い地域包括ケアシステムの構築は重要である。このため医療の高度化・複雑化も進んでおり、多職種連携教育も卒前教育が行われており、チーム医療に貢献できる医療従事者の人材育成は必要である。

 

多職種連携教育や多職種連携に力を入れる養成校は、1年次に医療福祉現場を見学し、2年次では座学による保健・医療・福祉に携わる多職種への理解を深め、3年次では「関連職種連携ワーク」による模擬患者を設定して学部・学科の垣根を越えて連携演習を設けている。



Ⅴ.卒前卒後教育・キャリア形成の問題点と展望について


 医療や医学進歩は目覚しく進んでおり、それに伴い諸制度の変更も行われ、言語聴覚士を取り巻く環境や専門職としてのニーズは変化している。これらに対応できるように言語聴覚士を養成する必要があり、新規に「地城言語聴覚療法学」「言語聴覚療法管理学」「画像評価」等を加えることが検討されている。また臨床実習形態や単位数の見直しや実習指導者の質の担保についても議論が行われている。


 協会が設けてる生涯学習システムについては「専門言語聴覚士」制度の導入等のシステム改定について検討されている。


 課題となっている点は、協会と士会の会員の一致化が進んでいないことであり、会員が一致化することで、人材育成等の事業を効果的に展開することが目的であり、検討会が設けられている。



【勉強となった点】


 就業してからの人材育成ラダーが細かく設定されており、各言語聴覚士が自身の経験年数も目安に、必要な知識・能力を可視化できる点は、教育水準を保つ上で重要ではないだろうかと考える。

 

 また卒前から卒後の多職種連携を想定し、同じく養成校で学ぶ多職種の学生間でのカンファレンスを設けて、模擬患者への支援を行なっていることは卒後から臨床での即戦力となるのではないだろうか。 



【最後に一言】


 各専門職が自身の専門分野について研鑽を積んでいるが、それぞれが持ちうる知識や技術を発揮するためにはそれぞれについてを知っている必要がある。多職種への理解を深める教育が卒前から確立されている現在の学生はその後地域へ出てからも重宝されることだろう。私も含めて、さらに多職種への理解を深め、より良い医療の提供を行いたいと思います。



執筆:本多竜也


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