転倒 どう防ぐ? 安全管理・転倒リスク評価

(230804配信)

転倒 どう防ぐ? 安全管理・転倒リスク評価

尾崎まり

総合リハビリテーション

第51巻・第4号・2023年4月号 P367-370

Key  Words:転倒・転落リスクアセスメントシート、転倒率、多職種



【アブストラクト】


 昨今の日本の医療・介護分野において要介護認定される高齢者が多くなり、原因疾患全体の13%を占めるのは「骨折・転倒」である。

病院・施設において高齢者の転倒予防は喫緊の課題であり、これには

①転倒リスクの評価

②個人に合わせた予防計画の作成

③一貫した計画の実行の3段階

が必要であり、多職種で様々なアセスメントシートを用いて行う必要がある。しかしリスクアセスメントの負担も少なくはないため、新たな転倒・転落リスクに対する評価・取り組みが検討されている。



【内容のポイント】


Ⅰ.はじめに


要介護認定される原因疾患の全体の13%を占めるのは「骨折・転倒」である。(国民生活基礎調査2018)転倒後は骨折に加え、頭蓋内出血の事故につながることがあり、ADL低下による悪循環を招くことが報告されている。


 日本における在宅高齢者の転倒率は年間約10−20%であるが、病院・施設の高齢者では30−60%であるとの報告もあり、病院での転倒予防は喫緊の課題である。



Ⅱ.病院における転倒・転落


 高齢者が二足歩行で院内生活する限り、転倒は避けて通れない事故である。しかし、医療施設内での転倒が訴訟に至るケースもあり、医療者側には「予見義務と注意義務」が厳しく求められている。


 入院患者の高齢化は進んでいる中で病院内で行われている活動で効果が報告されているものに以下のようなものがある。


①多職種による転倒・転落予防対策ラウンドの実施

②環境整備

③転倒・転落リスクアセスメントシートを作成しアセスメントの実施

④データをもとに定期的に転倒・転落リスクアセスメントスコアシートの見直し

⑤勉強会・研修会(実際に転倒・転落の危険性の体験)

⑥患者や家族に対する危険性や防止策の説明・教育



Ⅲ.転倒・転落リスクアセスメントスコアシートに求められるもの


 病院内での転倒防止プロセスは

①転倒リスクの評価

②個人に合わせた予防計画の作成

③一貫した計画の実行

や、ケアプランに対して、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のPDCAサイクルを繰り返すことが転倒・転落を減少させるために必要である。


 多くの医療機関において、2005年に日本看護協会から提供されたスコアシートを使用することで転倒・転落インシデントの把握を行なっている。このシートには、

①年齢、②既往歴、③感覚、④機能障害、⑤活動領域、⑥記憶力、⑦薬剤、⑧排泄のそれぞれをスコア化し、その合計により、

危険度Ⅰ:転倒・転落を起こす可能性あり

危険度Ⅱ:起こしやすい

危険度Ⅲ:よく起こす

に分類され、危険度別に患者の観察、環境整備、指導・援助の対策を立てるように規定されている。


著者の医療機関ではこれに加えて、「立ち上がり動作、起立保持、歩行、方向転換、椅子への腰掛け」の5項目を評価、点数化し、合計点数から危険度1(0−5点):転倒・転落を起こす可能性あり、危険度2 (6−15点):起こしやすい、危険度3 (16点以上):よく起こすに分けることで予防対策を行なっている。



Ⅳ.転倒・転落リスクアセスメントの実際


 著者の医療機関では、入院当日、転棟・転科時、病状変化時、術後、転倒後8時間以内に行いように規定することで院内での転倒率をデータ化し対策をしているが、インシデント影響レベル3b以上の症例に限っても、直近5年間は常に10例以上発生している。スコアシートのデメリットは評価回数が多いため、アセスメント業務負担が多く感じているスタッフもいることが課題である。


 医療・看護必要度を用いた研究報告からは年齢、内科系入院、ADL、認知機能、濃厚な管理を要する点滴・輸血が転倒に深く関係していることも報告されている。

 著者の医療機関での転倒・転落インシデントは、60−80歳台、男性、転倒場所はベッドサイドや病院内、時間帯は食事の時間帯前後、きっかけは排泄行為が多く、看護師のアセスメント不足が多い結果であった。



【勉強となった点】


 医療機関には多くの高齢者が入院生活を送っており、転倒・転落は患者・家族、医療従事者にとっても避けておきたいものである。これを解決していくには多職種の知識やディスカッションが必要であり、それにはそれぞれの医療機関に即したアセスメントシートを活用することが重要であることがわかった。


改めて私自信の医療機関でどんなアセスメントを行なっているか確認する必要があり、本稿に掲載されているアセスメントシートも参考になることと思います。



【最後に一言】


 医療機関であれば看護部門が中心に転倒・転落に対する取り組みを行なっている病院・施設は多いのではないでしょうか。その他の専門職の介入も必要であり、療法士は患者それぞれの身体能力や適応環境の評価については秀でた知識を有していると思うため、これを参考に皆さんの専門性を活かして頂きたい。


記事:本多竜也


セラレビ無料メルマガに登録いただければ

・先輩のまとめたジャーナルレビューをメールでお届けします
・週1回(毎週金曜日にお届けします)

是非、無料で勉強できる環境を整えてください

メルマガの詳細