摂食嚥下障害・言語障害に対するリハビリテーション治療と実践
山路 千明
総合リハビリテーション Vol.50 No.3 2022.3 pp259-263
Key word:摂食嚥下障害、失語症、構音障害、言語聴覚療法
・嚥下リハビリテーションに関わることのある方
・摂食嚥下障害・言語障害を有する患者を担当しているセラピスト
今回も脳卒中治療ガイドラインの改訂に伴って変更された内容について見ていきます。ここでは、タイトルにある通り摂食嚥下障害・言語障害(失語症、構音障害)についてピックアップしている記事を紹介します。
脳卒中治療ガイドラインでは、以前まで嚥下練習についての推奨度は“グレードB”であり、有効性を示す十分なエビデンスが構築されていませんでした。改定後は摂食嚥下障害に対する練習の重要性が示され、“推奨度A”とされました。
以下に、その嚥下練習についていくつかピックアップしていきます。
[頭部挙上練習および頸部の運動練習]
この練習は、間接練習の中でも頻回に行われる内容であると思います。この練習は喉頭挙上に関する筋の筋力強化を行い、食道入口部開大を図ることによって咽頭残留を減少させる効果があります。
代表的なものはシャキア法ですが、負荷が強く実際の方法通りにできない患者も多いかと思います。その他の方法としてはCTARという方法やPNFによる頸部運動、日本摂食嚥下リハ学会誌の練習方法まとめで紹介されている頸部等尺性収縮手技、嚥下おでこ体操などがあります。様々な種類の練習方法がありますが、筋力トレーニングと同様で個々に適した方法を選択し、運動の効果が得られているかしっかり評価する必要があります。
[舌の抵抗運動練習]
舌の抵抗運動も嚥下障害を改善させるとの報告があり、その多くが舌圧(舌と口蓋の抵抗力)を強化する方法です。この方法では口腔機能の改善や、梨状窩残留の減少などの効果が期待できます。
練習方法については“ペコぱんだ”という器具を用いたり、舌圧測定器を用いたりすることで難易度や負荷量を調整することが出来ます。
[バルーン拡張法]
この練習方法は食道拡張用のバルーンカテーテルを用いて食道入口部を拡張し、輪状咽頭筋弛緩不全による嚥下障害に対する練習方法です。
この方法は馴染みがない方も多いのではないでしょうか。まだこの練習に使用する器具が市場に出てから日が浅いため、今後のエビデンス構築が期待される練習方法の1つとなっています。
[電気刺激・磁気刺激]
この方法は近年報告数が増加し、レビューで有効性が確認されています。脳卒中治療ガイドライン2021でも、“嚥下障害に対して咽喉頭電気刺激や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を行うことは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル高)”とされています。ただし、これらの方法は単一での有効性が報告されていないため、従来の嚥下練習と併用することで機能改善が期待できます。
【言語障害;失語症】
失語症に関しては“失語症に対して系統的な評価を行うことが勧められている(推奨度A、エビデンスレベル中)”となり、改訂前のグレードBから引き上げられました。
失語症に対する言語聴覚療法については改訂前と同様に推奨されています(推奨度A)。失語症の練習内容については練習内容や対象疾患の違いなどから有効性のエビデンスは希薄となっていますが、2021年に日本メロディックイントネーションセラピー協会が設立され、MIT日本語版(※音楽的要素を用いて発話障害の改善を図る手技)の普及、エビデンス確立に向けた動きが始まり、今後注目したい内容の1つです。
【言語障害;構音障害】
脳卒中後の構音障害は、口唇や舌などの発語器官の運動障害によって生じています(運動障害性構音障害)。日本においては標準的な評価として標準ディサースリア検査(AMSD)を用いることが多いですが、エビデンスは明らかになっていません。練習方法においても介入結果を示す報告は非常に少なく、エビデンスは低いままです。
脳卒中患者に対する歩行練習などのエビデンスが高まっているのと同様に、摂食嚥下障害・言語障害に対する練習方法のエビデンスも高まっています。
今回触れた領域に関しては、様々な機器が用いられていることもあり、今後新しい機器の開発にも注目していきたい部分ですね。
・エビデンスの元にとなった論文を読んでみる!
・新しい練習機器についての情報収集を行う!
文責:テツ@永遠の若手理学療法士