疼痛に対するリハビリテーションの概要

(20211224配信)

疼痛に対するリハビリテーションの概要

萩野浩、和田崇

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第30巻・第12号(通巻361号)・2021年11月号 P1196-1201


Key Words:痛みのマネジメント、包括的評価、fear-avoidance moel、運動療法、包括的アプローチ


【アブストラクト】


Ⅰ. 疼痛に対するリハビリテーションの位置つけ

Ⅱ. リハビリテーションの対象となる痛みの種類

Ⅲ. 疼痛に対するリハビリテーションで行う評価

Ⅳ. 疼痛に対するリハビリテーションの実際


【内容要約】


 リハビリテーション介入において関係の深い疼痛に対する理解を深め、分類し、臨床での評価、介入についての概要が書かれている。

 国際疼痛学会では2020年に疼痛の定義を「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」(日本疼痛学会訳)としている。


またその注釈には

①痛みは常に主観的な経験であり、生物学的、心理学的、社会的な要因に影響を受けて要ること

②痛みと侵害受容は異なる現象であり、感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできないこと

③個人は人生での経験を通して、痛みの概念を学ぶこと

④痛みを経験している人の訴えは尊重される必要がある

⑤痛みは通常、適応的な役割を果たすが、一方で身体機能や社会的および心理的な健康に悪影響を及ぼすこと

⑥言葉による表現は、痛みを表現するためのいくつかの行動の一つに過ぎず、コミュニケーションが不可能であることは、ヒトあるいはヒト以外の動物が痛みを経験している可能性を否定するものではないこと

が記載されている。


したがってリハビリテーション介入において感覚的な側面での評価だけではなく、身体機能面、社会・心理面での影響についても詳細な評価や介入が必要となる。


 運動器疾患に限らず、脳血管疾患、がん等の内部疾患に共通する問題であり、リハビリテーションに対する期待も大きく、理解を深めていく必要がある。


リハビリテーションにおける疼痛は疼痛そのものが問題だけではなく、リハビリテーション介入を実施する阻害因子となることや、ADL、QOL低下へ直結することがある。疼痛の中には大きく分けて急性疼痛と慢性疼痛に分類される。急性疼痛は組織損傷に起因した治癒過程に体験するものが多く、慢性疼痛は組織損傷が治癒している中で残存する場合や著名な組織損傷がない場合にも起こりうる。多くの場合3ヶ月以内に疼痛改善するがそれ以上に疼痛が継続することで慢性疼痛へと移行する。急性疼痛により不動や運動障害等へ影響することが考えられ、中枢性発作により慢性疼痛となることも多く、リハビリテーション介入により予防対策が必要である。


 また疼痛の分類に器質的疼痛と非器質的疼痛に分けられる。さらに器質的疼痛は炎症や組織損傷により生じた発痛物質が末梢侵害受容器を刺激することで生じる侵害受容性疼痛と、体制感覚系に対する損傷や疾患の直接的結果として生じる神経障害性疼痛に分けられる。またこれらは単発的に出現する場合もあるが、並存する場合もあり、混合性疼痛となることもある。非器質性疼痛にも心因性疼痛、機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛等がある。急性疼痛では侵害受容性疼痛が多く、慢性疼痛では器質的要因のみでなく、心理社会的要因が関わっていることが多くある。


 リハビリテーション評価の疼痛についてはvisual analogue scaleやnumerical rating scaleが多く用いられる。その他にも神経障害性疼痛をスクリーニングするpain DETECT questionnaire(MPQ)がある。近年では心理的、身体的、社会的側面の相互的な評価が必要であり、疼痛の認知および心理的評価では、疼痛の破局的思考を評価するPain catastrophizing scale、腰痛の恐怖回避信念を評価するFear avoidance beliefs questionnaire、不安・抑うつ評価のHospital anxiety and depression scale等のが存在する。また身体機能評価や社会的側面の評価、QOL評価があり、これらの多面的関係性を本稿ではFear avoidance modelとしてイメージしやすく記載されてる。


 急性疼痛については薬物療法による疼痛緩和が重要であるが、それに加えリハビリテーション介入の併用が不可欠である。急性疼痛については損傷部位の治癒を進め、慢性疼痛への移行予防を図り、基本方針は「生物医学的アプローチに基づく損傷部位の治癒促進」、「最小限の安静と活動性の継続」である。前者は物理療法、後者は運動療法が担う。


運動による鎮痛効果(EIH)は内因性オピオイド活性や下行性疼痛抑制系の賦活の内因性鎮痛機序がある。また慢性疼痛には運動療法に加え、認知行動療法、多分野・多職種による集学的治療が推奨されている。患者自らが身体活動低下の予防を図り、ADL維持・改善と同時に疼痛の認知や心理的側面の好転反応が自己効力感の向上を期待される。そのためリハビリテーション介入で疼痛のセルフマネジメントを行うことが重要である。


【拝読させて頂き感じる点】


 疼痛はリハビリテーション介入に関わる対象患者に共通する問題であり、その疼痛の理解と評価、それらによる治療介入が多くの療法士の先生方には必要不可欠であることが認識された。

 疼痛自体の除去だけではなく、心理社会面でのケアが再発予防につながり、ADL・QOL向上につながり、患者自身がセルフマネジメントを行うことが重要であると考えさせられた。 


【最後に一言】


 疼痛については人それぞれの経験や主観性が強く、細心の注意を払い寄り添うことが必要であるが、それらの研鑽のためにも多くの方に拝読して頂き、疼痛に悩む患者が1人もでも多く少なくなることを祈りながら最後の言葉とさせて頂きます。

 また各疾患の疼痛についての記事も掲載されているため、そちらの方にも目を通して頂きますようお願い申し上げます。



執筆:本多竜也

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