今こと鍵となる包摂社会を目指す地域リハビリテーションの展開

(230616配信)

今こと鍵となる包摂社会を目指す地域リハビリテーションの展開

栗原正紀

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第32巻・第5号(通巻382号)・2023年5月号 P445-452


Key  Words:ポスト2025年(2040年問題)、地域リハビリテーション、地域医療構想、地域包括ケアシステム、地域密着型病院



【アブストラクト】


 2025年には高齢者が増加し、医療介護ニーズが高まることが予想されており、2040年にはピークに達する。入院患者の多くは認知機能低下を有する要介護高齢者であり、独居や施設入所、老々介護状態が大半を占める。これに向けて急性期医療から、慢性期医療、地域生活支援・終末期までの総合的で包括的な地域リハビリテーションの体制強化が必要である。


 回復期以降のリハビリテーション医療の継続を担保し、利用者の尊厳遵守が地域医療に求められるため、リハビリテーションに関わる専門職の人材育成、制度対策が求められる。


 また急性期医療の段階から重症化予防に対するリハビリテーションが重要で、重症障害者に対してはリスク管理下で質の高いリハビリテーションの提供、地域生活支援が求められる。


 我々リハビリテーション医療に関わる専門職には住み慣れた環境でその人らしい暮らしの継続をシームレスに支援する役割が求められ、地域包括ケアシステムの進化に寄与していかなければならない。



【内容のポイント】


Ⅰ.ポスト2025年、2040年問題


 全ての団塊世代が75歳以上となる2025年を目指し、「地域医療構想」「地域包括ケアシステムの構築」が推進されていることは、ご存知の方が多いのではないでしょうか。しかし今はその先の問題を考えなければならない(ポスト2025年)。少子高齢化社会の進行のため、全世代型社会保障の構築が喫緊の課題である(2040年問題)。

 

Ⅱ.日本リハビリテーション病院・施設協会の定義


 日本リハビリテーション病院・施設協会は2016年に「地域リハビリテーションとは、障害のある子供や成人・高齢者とその家族が、住み慣れたところで、一生安全に、その人らしく生き生きとした生活が出来るよう、保健・医療・福祉・介護及び地域住民を含め生活にかかわるあらゆる人々や機関・組織がリハの立場から協力試合って行う活動の全てを言う」と改訂し包摂社会の実現を目指した。 


Ⅲ.ポスト2025年、望まれる急性期から始まる地域リハの展開


 日本リハビリテーション病院・施設協会が定義とともに提唱した推進課題は「急性期・回復期・生活期リハビリテーションの質の向上と切れ目のない体制整備」が明記されている。


 地域におけるリハビリテーション専門職の活動のみだけではなく、医療全体が地域リハビリテーションの理念が理解し、共有することで、 医師、看護師等の参画、かつ地域密着型を目指す中小病院までも総動員して地域リハビリテーション理念の実現に向かうことが、地域包括ケアの深化につながる。


Ⅳ.これからの地域医療のあり方に関する考察〜超高齢社会における医学モデルの破綻から学ぶ〜


 入院加療に伴う安静・臥床・絶飲食は高齢者の活動性を低下させ、低栄養状態をもたらし、容易に廃用状態を作り出してしまうため、入院が長期化し、寝たきりを作ってしまう。つまり、 高齢者は「救命」「治す」を大義とした急性期治療では生活につながらないことを意味する(医学モデルの破縦)。


Ⅴ.他職種協働の必然性に関する考察


 超高齢社会の地域医療において、医師や看護師のみでは知識・技術面、マンパワー的にも限界であり、他の専門職と協働するチーム医療の必然性が生まれる。


 ポスト2025年には医療の中には介護の視点も必要であり、積極的な介護職の参画による、多職種協働(タスクシフティング)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)の導入によって、働き方改革・環境整備等の課題に対処し、業務の効率化や労働生産性の向上を目指すことが必要である。


Ⅵ.医療機能の分化・連携の本質に関する考察


 機能分化・連携の本質的な目的は、高度に進歩した急性期治療を着実に地域生活につなげるための地域完結型医療提供体制の構築にある。急性期は「生活の準備」、回復期は「生活の再建」、慢性期は「獲得された生活機能の継持・向上」という生活の視点適時・適切かつ継続的なリハビリテーションサービスが提供されることで「医療が地域生活を支える」ことが望まれる。


 

【勉強となった点】


 急性期では繰り返される肺炎や心不全が要介護状態を招き、これが長期入院をもたらすため、入院中からの予防リハビリテーションの実施が必要であり、回復期では更なる重症患者に対してリスク管理下で着実にかつ短期間で在宅へ退院していくためのサービス提供が必要である。


それでも重度障害となった場合には、その人としての尊厳を順守しながら寝たきりとならない総合的包括的なリハビリテーション介入が生活期に求められるため、在宅療養での訪問診療医を中心とした人生会議の開催や看取り体制の構築が期待されていることがわかる。



【最後に一言】


 本稿には著者が属する長崎リハビリテーション病院における地域リハ活動が紹介されている。法人としての「3つの活動(集う・育む・つなぐ)」を展開しており、これまでに述べられた地域包括ケアシステムの拠点としての取り組みが参考となった。


 これを読んでいる方々が住んでいる、勤めている地域ごとで求められる活動の内容やサービス体系は異なると思いますが参考にしていただけたらと思います。



記事:本多竜也


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