上肢切断リハビリテーションUPDATE
柴田八衣子
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第32巻・第14号(通巻391号)・2023年12月号
P1358-1366
Key Words:上肢切断、能動義手、筋電義手、能動義手適合検査
上肢切断者の原因の大半が、労働災害や交通事故等外傷によるものである。また義手処方のうち約9割が装飾用義手であり、能動義手の普及には課題が残る。本稿では能動義手、筋電義手についてのリハビリテーションについて述べられている。
体内力源義手の一つに能動義手がある。継手や手先具を操作するための力源に切断者自身の身体の動きを用いている。肩甲帯や肩関節の運動を行うことでハーネスを介してケーブルが牽引され、義手(肘継手のロック・アンロックや屈曲・伸展または、手先具の開閉)を操作する。
体外力源義手には筋電義手があり、継手や手先具を操作するための力源に電気を用いている。筋電(筋肉が収縮するときに発生する微弱な電位差)を電極によりシグナル(入力信号)として用いており、電気の力を力源として、義手(モーターやコントローラーが内蔵された継手や手先具) を操作するものである。
どちらも特性や種類を理解した上で、切断者がどのように生活するかを明確にした上で選定を行う必要がある。
一般社団法人日本義肢装具学会が 「義手適合判定検討委員会」 特設委員会を設置し、検査の目的・項目・実施方法等を検討し、 「能動義手適合検査表日本版」 を作成し、切断者に対して十分な機能が発揮できるかを確認するため適合検査を実施する。
上肢切断に対する義手を使用した今後の展望は、様々ある義手や部品を長期間試用することは困難なため、一定期間レンタルできるシステム等が必要である。
Ⅰ.はじめに
失った手を補完するために義手を用い、生活行為を補うために必要となる。切断者にとって必要性は多岐にわたるため、各種の効果を熟知して、選定することが重要であり、そのために生活で使える義手となるまでのリハビリテーションが重要な役割と責任を持つ。
Ⅱ.義手の基本
義手は、 ソケット・ハーネス・支持部・継手・手先具等で構成されている。また、義手は大きく能動義手・装飾用義手・作業用義手に分けられる。さらに能動義手は体内力源義手(能動義手)と体外力源義手 (筋電義手) に分けられる。近年では体外力源義手として多指駆動型(多関節電動ハンド)の筋電義手が注目されている。
Ⅲ.上肢切断者のリハビリテーションで実施する作業療法の流れ
上肢切断者の作業療法は
①オリエンテーション
②作業療法評価
(初期評価:アセスメントによる要因の特定、介入方法の検討、プログラムの立案)
③義手装着前の練習
④訓練用仮義手の製作
⑤訓練用仮義手の適合検査
⑥義手装着練習(基本操作練習・応用操作練習・社会適応練習)
⑦本義手の製作
⑧本義手の適合検査
⑨最終評価(適宣中問評価は実施する)
⑩引き継ぎ・アフターフォロー
という流れで実施される。
Ⅳ.上肢切断者のリハビリテーションのための作業療法評価のポイント
評価の目的は明確なニーズを捉え、現状を把握し、予後予測による目標・方針を立てることが重要である。
Ⅴ.能動義手の作業療法(義手装着前の練習)
義手装着前練習では、関節可動域の拡大と維持、筋力増強と維持、それに加え、断端成熟の促進とケア、日常生活活動の改善である。
そのほかには操作練習の阻害要因となる浮腫や異常感覚等はできる限り早期から取り除くことが望ましい。
Ⅵ.能動義手の作業療法(義手装着訓練)
練習用仮義手が完成すると、義手装着訓練に移る。ここでは義手という道具の有効性を感じ、道具を自身の体の一部として認識していくことが目的である。使用する幅を広げるためには、使用時のポイントを切断者自身が習得していくことが重要である。
Ⅶ.筋電義手の作業療法(義手装着前の練習)
筋電義手では、上記の能動義手に加え、筋電ハンドの動きを制御するけど筋電信号の検出と制御訓練が重要となる。
筋電信号を採取する筋肉は、手関節掌屈筋群(橈・尺側手根屈筋)と、手関節背屈筋群(長・短橈側手根伸筋、尺側手根伸筋) から選択される。
また筋収縮訓練を行い、安定した筋収縮で屈筋と伸筋を分離収縮するくらい必要があり、閾値に合わせて出力できることが求められる。
Ⅷ.筋電義手の作業療法(義手装着訓練)
能動義手と同様に、基本操作練習、応用操作練習(両手動作や日常生活動作)練習、社会適応練習(個々のニードに応じて就労、就学前訓練)を行う。
多指駆動型(多関節電動ハンド)の場合は、把持パターンや手継手の位置等多様性が高く、個々に合わせて設定をできるように練習を行う。
義手の導入においても切断者のニーズが重要であり、義手という道具(体の一部)にどんな機能を望み、どのように生活を行うかを引き出すための知識や経験を提供していく必要がある。
また、早期より断端部の形成に向けた介入も必要であり、身体アプローチも時期により内容も変化して対応することが必要である。
能動義手の普及はまだまだ道半ばであり、小児筋電義手に至っては訓練施設が限られている現状である。
切断者に対する義手適応の評価や判断ができる人材やそのような人材を育成する環境がまだまだ必要であり、これを読んでいる皆さんの中にも興味がる方はぜひ、本稿を義手を学ぶきっかけにしてほしい。
記事:本多竜也