Wallenberg症候群
脇坂成重
理学療法ジャーナル Vol.54 No.4 April.2020 P409-416
Wallenberg症候群とは・・・ ・延髄外側の障害によってみられる様々な症状を言う. ・原因は,椎骨動脈やその枝の後下小脳動脈などの灌流障害が多い. ・代表的に,病側の温痛覚障害,頸から下の反対側の温痛覚障害がある.
●内容のまとめ
1,はじめに この著では,延髄背外側部の梗塞によるWallenberg症候群に伴い,姿勢定位障害(LP)を呈し LPの蔓延化により遅延した症例の回復過程について考察を交えて書かれている.
1,脳画像から見える具体的な損傷部位
【延髄外側部】
・ 背 側 脊 髄 小 脳 路 → 無 意 識 な 固 有 感 覚 情 報 を 伝 達 す る .
・ 外 側 前 庭 脊 髄 路 → 抗 重 力 下 で の 反 射 的 な 下 肢 伸 筋 群 活 動 を 伝 達 す る . ・外側脊髄視床路→対側の温痛覚を伝達する. ・下小脳脚→運動失調をひき起こす. ・前庭神経核下→めまいや眼振を引き起こす. ・中枢性交感神経路→Horner症候群.
★POINT
錐体路は延髄の腹側を走行するため,運動麻痺は通常認めないことが多い.
2,理学療法士として推察すべき現象
・LP例は,退院時の機能水準が低く入院が長期化することが報告されている. →早期診断が必要!!
・LPは不随意的に病側に身体が倒れる現象
→Pusher現象と区別がつきにくい!
★POINT
Pusher現象の場合,非麻痺側の上下肢が突っ張って押したり姿勢を正中位に他動的に修正 すると抵抗がある,LPの場合抵抗なく修正可能.
3,実際の現象及び評価結果とアプローチ
2で推測された症状と実際の症例との比較と評価が書かれている. 実際に左側への側方突進現象を著名に認め、視覚的垂直定位(SVV)は10°の傾斜をみとめ た。LPへのアプローチは「垂直位の再学習」を図る!!
→しかし,SVVの偏奇と前庭神経核損傷による前庭機能障害により,視覚と前庭覚は代償手段 として使用できない!
★POINT
残存している体性感覚を利用したトレーニングを!
その方法とは・・・?
触覚,圧覚情報の使用「壁を利用した姿勢の安定と圧の移動による体性感覚入力の増大を 行い垂直位の学習と右下肢への荷重学習を行った.」
4,経過および考察
LP例の予後は良好
→SVVは経時的にに改善すると報告がされているから. 多くは二週間以内で改善されるという. 本症例は、SVVの改善はあったが、運動失調による姿勢制御が困難であったことや、前庭機 能障害による平衡感覚の低下(LPの蔓延化)があり回復が遅延したと考えられる.
『まとめ』
姿勢保持に重要な役割は、
1体性感覚 2視覚 3前庭感覚 今回、Wallenberg症候群により2と3の障害により左へ傾き自己修正困難!
→障害されていない1の代償にて「垂直位の再学習」を図った.
SVVの経時的改善と,体性感覚の代償により153病日目に自宅退院となった.
『感想』
SVVは,多くは二週間以内に改善するとのことから,再評価し改善度合いによっては,視覚代 償を用いたアプローチ(全身鏡など)も行うことも可能ではないかと考えた. Wallenberg症候群は梗塞部位によって人それぞれ症状の出現が異なり回復への過程も異 なるため画像診断より推察と適切な評価を行い,回復遅延が起こらないよう適切な理学療法 を行う必要があると学んだ.
記事:ももこ