入門講座:認知症のリハビリテーションと認知行動療法
岩田良太、大島伸雄
総合リハビリテーション Vol.49 No.6 2021.6 pp569-575
Key word:認知症、認知行動療法、作業療法
・認知症者にかかわる全ての方
皆さんは認知症や、認知症に対するリハビリテーションといったら何をイメージするでしょうか?
多くの方は認知機能低下を中心とした中核症状と周辺症状の存在、認知症進行予防のための運動療法をイメージするかと思います。
認知症リハにおける認知行動療法に関する記事を紹介します。
「言葉は聞いたことあるけど、どんなものかイメージができない」という方もいるのではないでしょうか?
CBTとはカウンセリングを通して相手が自分自身の思考の歪みに気付き、意欲を持って問題に対処できる能力を身に付けるための治療法です。
その効果としては、安心感や自己効力感を得るためのスキルを得られたり、認知症の周辺症状(BPSD;Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の軽減を期待したりすることができます。
CBTでは心理的側面を見た研究が多く、実は生活場面の改善を目的とした例は報告されていないのです。
ここでは、筆者が行った軽度認知症者に対するCBTアプローチ例を紹介します。この研究ではCBTカウンセリングを応用した介入を行うことで生活能力が優位に改善したとの結果が出ています。
ではその方法とはどのようなものでしょう?
CBTカウンセリングを行う前に認知症者の発言を促すための傾聴から開始し、徐々に生活上の困りごとや課題などの情報から相手の思考を探るという準備段階を踏んでいます。
具体的な課題が見えてきたら、CBTカウンセリングの始まりです。その手順は、以下の手順のようにまとめられます。
動作的な対処方法の立案
訓練に活かせるよう認知症者に提案
共有するためのカウンセリング
カウンセリング後、その日の感想やこれまでの問題点を振り返りながらまとめる
次回までの目標を設定
これらの作業ではカウンセリング・ノートを用いられて行われており、これを効果的に活用することもポイントであると思われます。
このノートでは課題や目標の記載、活動場面の写真を貼り付けたりすることで、対象者自身が「今、何のために何を行っているか」を視覚化し、いつでも確認することができるようになっています。
BPSDの質問指揮評価とFIMが負の相関を示すことから、認知症者の不安や抑うつなどの心理的要因が改善することでFIMも改善し、目標達成の要因になっていることが考えられています。
上記には示していないが、MMSEとFIMの認知機能面でも有意差を認めたことから、カウンセリングにより生活や心身機能面が変化したことで記憶の向上が見られたとも考えられています。
今回の研究では「話の傾聴」を準備段階として踏んでいることから、コミュニケーションを図ることがカウンセリングのみならず、我々セラピストが行う目標共有のための基本であると改めて感じました。
このコミュニケーションの次からが始まりの段階であり、個々の課題に対するカウンセリング・ノートを用いた介入方法もすぐに臨床に取り入れやすい方法でした。
今後、認知症者は増えることが推測されており、今回の対象にある軽度認知症者も増えることが容易に想像できます。
自身が担当する方に対して何をどのように実現するか、そしてそれをどのように共有するかを意識し、一人ひとりに対して向き合うかを考える良い刺激になったと思います。
・まずはしっかりコミュニケーションから!
・いつでも確認できる方法で目標の共有を!
記事:テツ@永遠の若手理学療法士