慢性期医療とリハビリテーション

(230526配信)

慢性期医療とリハビリテーション

武久洋三

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第32巻・第5号(通巻382号)・2023年5月号

P429-436



Key  Words:リハビリテーション包括化、患者の望むリハビリテーション、予防リハビリテーション、摂食嚥下リハビリテーション、膀胱直腸障害リハビリテーション



【アブストラクト】


 日本におけるリハビリテーションは、戦後の高齢化とともに対象が変化しながら、保険診療上の評価が大幅に認められるようになった。リハビリテーション専門職も年々増加し、リハビリテーションの概念が一般化されるようになり、2000年には回復期リハビリテーション病棟の新設、2006年には疾患別リハビリテーション料の新設、算定上限日数の導入が行われた。


 疾患別リハビリテーション料は文字通り疾患別に与えられる点数が異なり、提供されるリハビリテーションの質やその効果に関係なく、実施したことに対し報酬が支払えわれることが、一部のリハビリテーションの質の低下を招いている。


 現在のリハビリテーション診療において一部、自立歩行を最優先に重点が置かれている傾向にあるが、多くの高齢者は年々生活の制限が増えてきており、日常生活において重要な基本的動作(摂食・嚥下、排泄)ができることが望まれており、その機能の改善が最優先に行われるべきである。


 また予防的リハビリテーションの発展が重要であり、疾病発症による身体機能の低下を招かない、機能低下しても重症化しないことへのリハビリテーションが重要である。



【内容のポイント】


Ⅰ.日本リハビリテーションの歴史


 日本のリハビリテーションの歴史は1945年まではポリオの後遺症等の肢体不自由児や、第二次世界大戦等の負傷兵士が主な対象であった。1950年代後半には高齢疾患、特に脳卒中が中心となり、1960年代初頭になりこれが一部医療機関でリハビリテーションが実施されるようになってくる。1963年に日本リハビリテーション医学会が創設され、同年PT・OTの養成校開校となる。その後急速な高齢化とともに広く一般的にリハビリという概念が認知されるようになった。



Ⅱ.日本のリハビリテーション提供体制の問題点


 疾患別リハビリテーション料は、1単位20分とし、1患者に対し、1療法士がリハビリテーションを提供することに報酬が認められる。しかしなぜ、心大血管リハや呼吸器リハ等の高リスクなリハビリテーション医療よりも脳血管リハの診療点数が高いのだろうか。症状の軽重はともかく、どんなリハビリテーション介入を行なったか、どれだけ改善させたかは全く問われない20分間という時間に報酬が支払われている現状が昨今のリハビリテーション医療の質の低下を招いてしまったのではないだろうか。



Ⅲ.患者が望むリハビリテーション


 患者、利用者へリハビリテーションを提供する際にまず、どの機能回復を優先すべきかを考えなければならない。普段何気なく行っている「食べる」「排泄する」という行為が障害されることが失望感が強いのではないだろうか。「自分で食べて」「自分で排泄する」ことが優先されるべき機能ではないだろうか。



Ⅳ.予防リハビリテーション


 そもそも要介護状態、リハビリテーションが必要になってからリハビリテーションを行うより、できるだけ要介護状態にならないように予防することが重要である。


 「予防リハビリテーション」を行う必要がある状態とは、

①急性疾患による機能低下

②周術期における機能低下

③がんや神経難病による機能低下

④加齢による機能低下

⑤社会的要因による機能低下である。


 医師、療法食だけではなく国民全体が「リハビリテーションの必要な状態にできるだけならないようにする意識がリハビリテーション医療の世界でも常識化する」ことで、要介護状態の患者を減らすことに繋がるのではないか。



【勉強となった点】


 入院患者のリハビリテーション目標に自立歩行を挙げる療法士は少なくないと思います。これ自体が悪いことではなく、歩行というもの自体が動作能力単体を指すのではなく、それに伴う患者の希望が含まれており、その人自身の尊厳や、満足が伴っていると信じています。


 改めて何のためにリハビリテーションを提供しているのかを考えるきっかけとなる発表ではないでしょうか。



【最後に一言】


 時代の流れや日本の成長に合わせてリハビリテーションの提供対象は変化している。今まさに慢性期や予防的なリハビリテーションへ変遷している真っ最中ではないだろうか。リハビリテーション医療がその流れに取り残されないためには、リハビリテーション医療の質の担保が必要ではないでしょうか。


記事:本多竜也

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