作業療法士の卒前卒後教育とキャリアパス

(230818配信)

作業療法士の卒前卒後教育とキャリアパス

宮口英樹

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION

第32巻・第6号(通巻383号)・2023年6月号

P532-540

Key  Words:作業療法教育、生涯教育制度、キャリアパス、チーム医療教育



【アブストラクト】


 作業療法卒後教育には、日本作業療法士協会が設ける生涯教育制度があり、基礎研修修了後から認定作業療法士、専門作業療法士の認定制度を設けることで、作業療法の質の向上を図っている。


 OTキャリア形成としては複数の施設間でのレジデント教育や、大学院での研究による能力向上を図り、地域共生社会への寄与もキャリア形成の一つである。


 チーム医療については養成教育課程で、「栄養、薬理、医用画像、救命救急及び予防の基礎」「自立支援、就労支援、地域包括ケアシステム及び多職種連携の理解」が必修となり、評価実習、総合臨床実習においては実習生がチームの一員として加わり、臨床実習指導者の指導監督のもとで診療臨床参加型臨床実習が行われる。


 昨今の多様化する生活様式に対応できるような卒前教育のカリキュラムの柔軟化や充実を図ることで医療分野以外の様々な領域で作業療法を提供できる環境や仕組みが考えられる。



【内容のポイント】


Ⅰ.卒前教育


 卒前教育制度の整備として日本作業療法士協会による既存の「臨床実習指導者中級・上級研修会」のカリキュラムを見直し、2019年度から「厚生労働省指定臨床実習指導者講習会」を開催して臨床実習指導者の育成を図っている。また2020年度からはこれの実践版である「臨床実習指導者実践研修制度」を創設することで更なる臨床実習指導者と実習施設の質の向上に取り組んでいる。 



Ⅱ.卒後教育(研修制度や認定制度)


 作業療法の質の担保のためには国家資格取得後も継続的な知識・技術の研鑽が必要である。このためには研修会の参加、研究の実施、学会・学術誌への発表、大学院等での教育がある。


 1998年度に「生涯教育単位認定システム」から2003年は「生涯教育制度」へ改定される。2015年度には生涯教育制度に生活行為向上マネジメント(MTDLP)研修が位置づけられた。


 日本作業療法士協会は「基礎研修制度」「認定作業療法士制度」「専門作業療法士制度」を設け、資格取得からおおむね5年間で基礎研修を修了し、次のステップとして認定作業療法士を修了することを勧めている。


さらに専門性を高めるために専門作業療法士制度を設け、「福祉用具」「認知症」「手外科」「特別支援教育」「高次脳機能障害」「精神科急性期」「摂食嚥下」「訪問作業療法」「がん」「就労支援」の全10分野に分けられる。



Ⅲ.OTのキャリア形成


 これからは地域共生社会がビジョンとして掲げられ、そのための地域包括ケアシステムの仕組みが基盤となる。高齢者や子ども、障害を持った人をそれぞれの地域での互助していくための作業療法教育が養成教育課程から必要であり、それを卒後教育に引き継いでいくことでキャリア形成を行なっていく。


 そのためには在職しながら、他領域や地域での臨床経験を積んでいくレジデント教育の拡充が望まれる。また大学院での個別の地域課題に対する研究も社会還元として作業療法士に求められるキャリア形成ではないだろうか。



Ⅳ.チーム医療に関する教育


 従来の卒前作業療法教育から総単位数が増加し、「社会の理解」「栄養、薬理、医用画像、救命救急及び予防の基礎」「自立支援、就労支援、地域包括ケアシステム及び多職種連携の理解」が必修科目となり、臨床実習においては実習生が診療チームの一員となり、臨床実習指導者の指導・監督のもと、診療参加型臨床実習が求められている。


 これらのために養成教育課程では基礎知識や社会人としての心構えを学習し、OJTや現場での指導体制も強化していく。



Ⅴ.卒前卒後教育、キャリア形成の問題点と展望


 卒前教育の質や量の拡充のためには今後も学内授業や臨床実習の更なる増加が考えられるが、時間・人・物理的問題があり、修業年限を4年以上として、教員の質的、量的改善が必要である。また急速に発達するICTやデジタル技術を活用したシミュレーション機器等の設備、備品整備が必要である。これらからも更なる資源発達に合わせた柔軟なカリキュラムの改変が必要である。


 生涯教育における問題点は「非協会員の増加による協会組織率の低下に伴う質の低下」「現行制度に参画する協会員数の減少」である。現行の研修制度を見直し、ICT等の利用による更なる参加を促していくことが必要である。


 若い作業療法士にとって現行の生涯教育制度は卒後から10から15年程度の期間を要するため、卒後5年を目安に取得できる新制度の導入も検討される。



【勉強となった点】


 2019年から臨床実習指導者、実習施設に対する教育体制の整備が始まり、これを読んでいる作業療法士の実習生時代との実習制度の違いに違和感を感じている療法士は私だけではないと思う。


 しかし、私自身が学生に戻ったことがあれば今の臨床実習体制による教育は羨ましいと思う点も少なくない。実習生の時点で診療チームの一員としての経験が体験でき、卒後もシームレスな教育体制があることは作業療法士としての質の向上につながることが期待できる。



【最後に一言】


 協会員数の減少が作業療法士協会の組織率の低下となることで、将来の会員、非会員ともに作業療法士としての存続につながっていく。年々変わる地域のニーズに対応できる作業療法士の育成と質の担保のためにも正しい教育体制の拡充は最重要課題であり、これを見ている作業療法士自身や、自身の周りの作業療法士の協会員をまずは増やしていくことが必要ではないでしょうか。



記事:本多竜也

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