脳梗塞後遺症ー膝関節や足部変形を中心に

(220121配信)

脳梗塞後遺症ー膝関節や足部変形を中心に

泉知子、長谷公隆

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 第30巻・第14号(通巻363号)・2021年12月号 P1438-1445


Key Words:関節機能障害、脳梗塞、痙縮、片麻痺



【アブストラクト】


Ⅰ.片麻痺に合併する膝および足変形の成因

Ⅱ.膝および足変形の評価

Ⅲ.膝および足関節機能を守るための治療とその予防


【内容要約】


 本稿では片麻痺と筋緊張コントロール不全による膝関節・足部変形を誘発する機序、関節機能評価、治療、予防について述べられている。脳梗塞片麻痺患者は麻痺に加え、上位運動ニューロン障害による筋緊張異常が出現することで関節機能障害を誘発する。


また下肢変形増強による歩行困難、関節痛や褥瘡によるQOL低下を誘発するためリハビリテーションを含む治療介入が必要である。


 片麻痺患者では上位運動ニューロン障害による筋緊張亢進等により関節変形が生じる。

これには腱反射亢進やクローヌスのみで変形をきたすことはなく、持続的な異常肢位や麻痺肢への反復的な外力が原因となる。リハビリテーション治療による活動再建を目指す上で荷重関節(膝関節や足関節の変形)は基本となる立位・移乗・歩行を獲得する上で重要である。そのため治療介入で考慮する点を挙げる。


 まずは膝関節制御による歩行制御である。片麻痺歩行の異常パターンの中で歩行速度に影響するものは大きく3つある。


立脚期に膝が伸展する歩行

膝関節が過剰に屈曲する歩行

立脚期に膝関節がほぼ固定されるパターンである。


麻痺側歩行では股関節による体幹支持と床面との接点である足関節の間に位置する膝関節の運動学的影響が及びやすいことが立脚期の膝関節制御である。片麻痺歩行では麻痺や筋緊張亢進、足変形等により床反力作用線が膝関節軸の前方を通る場合は反張膝、後方を通る場合は膝折れの原因となる。


 次に脳卒中後の足変形について述べる。足関節背屈筋の麻痺、底屈筋の過緊張、筋硬直、拘縮が尖足、回旋筋

と外転筋が不均衡を起こし、内反の原因となる。内反も尖足も運動学的歩行パターンが類似するものの、作用する筋活動様式には大きな違いがあり、個別的に病態を捉え、アプローチする必要がある。


 それでは続いて膝、足変形に対する評価について述べる。片麻痺患者ではWernickemann肢位を呈し、膝関節伸展、足関節内反尖足となり、状態継続による正しい運動獲得ができなければ筋短縮や拘縮に至る。反張膝は外旋歩行に伴う慢性的な負荷による内側側副靱帯付着部に疼痛が多く、Lachman‘s test等により前十字靭帯の緩みを評価する。


尖足は膝関節屈曲位の可動域を評価し、立位アライメントで膝関節伸展位にヒラメ筋が関与するかを診る。また痙縮評価にはMAS(Modified Ashworth Scale)がメジャーであり、依存的な速度にMTS(Modified Tardieu Scale)を用い、低速・高速の2条件で評価する。


しかしこれらは主観的評価尺度であり、筋スパズムや病的同時収縮、連合反応等による関節機能の異常を評価する必要がある。その他に移乗・歩行獲得のためには矢状面・前額面で立位姿勢の下肢アライメントを評価しなければならない。

膝関節の過剰な屈曲伸展があるか、内外反等の変形性膝関節症がペインに伴う骨盤・脊柱アライメント評価も重要である。また歩行分析も重要であり、麻痺肢が片麻痺行にどのように関与しているかを評価することが治療方略を左右する。


 最後に治療やその後の予防について述べる。ここでは大きく3つのべられており、装具療法がその一つである。

短下肢装具により底屈制動は立脚初期から中期の足底接地を遅延させ、heel rockerの形成促進で足圧中心を後方保持し、膝伸展モーメント減少をもたらす。


また尖足による踵接地困難に補高が有効なことや立脚後期のforefoot rocker形成困難には中足趾節関節部下部での装具カットを考慮し、大腿四頭筋筋力低下や深部感覚脱失による反張膝や膝折れがある場合は長下肢装具やヒンジ付きソフト膝装具を使用し歩行再建が必要である。


 2つ目はボツリヌス療法が挙げられ、内反では後脛骨筋、尖足では腓腹筋・ヒラメ筋、claw toesは長趾屈筋・長母趾屈筋が原因筋となり、施注後は装具療法を含め、リハビリテーション治療が必要である。


 3つ目は外科療法であり、保存的治療による疼痛軽快が望まれない場合に検討される。内反は前脛骨筋腱移行術、内反尖足はアキレス腱延長術、claw toesは長趾屈筋を踵骨へ移行・伸長術等がある。


 入院中は多職種連携により円滑な治療介入が継続できるが生活期では自己判断による装具療法を中断する症例も少なくない。そのためには診療連携による治療継続管理が必要である。



【拝読させて頂き感じる点】 


 作業療法の視点では歩行時の下肢アプローチに苦手意識があり、とっかかり難い内容というか思っている人が私以外にもいるのではないでしょうか。

本稿では膝、足変形に対するアプローチが述べられ、治療介入もリハビリテーションを含めて書かれており、内容が理解しやすいものであり、装具に関してはセラピストとして注視して変化を察知しなければならないと感じた。



【最後に一言】


 本稿では脳梗塞後の膝、足変形に焦点を当てリハビリテーション中心にその他療法について述べられている。

 リハビリテーション治療介入の中でも多く目にする症状であり、それぞれのタイプに分けて詳細に書かれている。反張膝や内反尖足のフローチャートも簡潔に掲載されているため、担当症例の治療介入に役立てて頂きたい。


執筆:本多竜也



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