尿失禁の分類と診断
吉田正貴、横山剛志
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第31巻・第9号(通巻372号)・2022年8月号
P834-841
Key Words:尿失禁、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁
Ⅰ.リハビリテーション医療における尿失禁の疫学
在宅介護における介護負担感の一つに尿失禁がある。全国の訪問看護ステーション、老健施設等を対象に行なったおむつの使用率実態調査では老健施設等の入所者は64%、訪問看護ステーションでの訪問看護利用者は70%であり、80%の人が老健施設入所前から在宅看護開始前の間におむつ使用開始となっていることがわかった。
また尿道留置カテーテルしている割合は老健施設等の入所者は5.7%であったが訪問看護ステーション利用者では11.8%となっており、老健施設入所時に59%、訪問看護開始時に66%が既に留置され、急性期病院等からが多かったとの報告がある。
尿道留置カテーテルは在宅生活においてADL、QOL低下の要因の一つとなるため、清潔間欠導尿(以下CIC)がその代替として合併症予防、QOL向上に期待されている。しかし介助者のCICへの認識は低く、今後の普及率がリハビリテーションの促進に大きく関係する。
Ⅱ.尿失禁の分類
尿失禁とは「蓄尿相中に経験する不随意な尿漏れがある症状である」と日本泌尿器科学会より定義される。以下に示すのは代表的な尿失禁であり、これらに加え、様々な尿失禁のタイプが定義されている。
①切迫性尿失禁:尿意切迫感に伴って、不随意に尿が漏れるという愁訴
②腹圧性尿失禁:労作時または運動時、もしくはくしゃみ、咳に不随意に尿が漏れるという愁訴
③混合性尿失禁:切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の双方があるという愁訴
④機能障害性尿失禁(機能性尿失禁):身体及び精神的障害のために、通常の時間内にトイレ(便器)に到達することができない機能的障害による尿失禁愁訴、以下2つに分けられる。
運動機能障害性尿失禁:運動機能障害のために通常の時間内にトイレに到達できないという愁訴
認知機能障害性尿失禁:認知機能障害のある患者が自ら気づかないうちに断続的に尿失禁が発生したという愁訴
⑤溢流性尿失禁:過剰な膀胱充満(原因不明)による尿失禁の愁訴
Ⅲ.尿失禁の基本評価
基本評価として重要なのが問診であり、尿失禁の発生状況や重症度、関連するかもしれない既往歴の聴取があり、詳細な問診で大まかな尿失禁のタイプの診断が可能である。
次に症状やQOLの評価には
①国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOLスコア(IPSS-QOL)
②過活動膀胱症状スコア(OABSS)
③主要下部尿路症状スコア(CLSS)
④ICIQーSF、⑤キング健康質問票(KHQ)
⑥OAB-q
がある。
尿失禁の評価に特異的な診察ポイントがあり
①外陰部の診察
②尿検査
③残尿測定
④血清クレアチニン値測定
⑤超音波検査
⑥ストレステスト
⑦Qチップテスト
⑧尿失禁定量テスト(パッドテスト)
⑨排尿日誌
がある。
Ⅳ.尿失禁の診断アルゴリズム
70%程度の患者では尿失禁の特徴を詳しく問診することで尿失禁のタイプを鑑別診断することが可能と考えられる。
しかし最近では尿失禁に特化した診断のアルゴリズムは作成されていない。本稿では筆者がこれまでに公表されていたアルゴリズムを現状に合わせて改変を加えたアルゴリズムが掲載されている。
Ⅴ.尿失禁の精密検査と重症度評価
主に泌尿器科専門医が行う検査には
①尿流測定
②膀胱内圧測定
③ビデオウロダイナミスクス
④尿道内圧測定
⑤腹圧下漏出時圧(ALPP)
⑥内圧・尿流検査
⑦膀胱造影
⑧その他検査(内視鏡検査、画像検査等)
がある。
また重症度判定にはさまざまなパラメータがあるが自己記載方式の質問票等が多い。
高齢者にとって尿失禁は深く関連があり、臨床でも見かけることある少なくない。介入時に骨盤底筋体操を指導した経験もあるが、これは詳細な評価から適応するタイプに対して治療効果が発揮される。
今回紹介させて頂いた評価項目を参考に問診を行うことでリハビリテーション介入による治療効果向上を図ることができる。
加齢に伴い男女ともに増えて来る悩みの一つに尿失禁がある。しかし、精神的なストレスも大きく、相手が医療従事者であっても悩みを打ち明けにくい症状の一つではないでしょうか。同様に介護者である家族も介護負担となるが打ち明けにくいものであると思われる。
迅速な診断が重要であり、その為に本稿に掲載されている尿失禁診断アルゴリズムは有用ではないでしょうか。臨床症状の把握の為にも本稿を読んで頂きたいと思います。
記事:本多竜也