人工関節置換術後疼痛 人工膝関節
岡 智大
理学療法ジャーナルVol.56 No.7 2022.7 p792-797
・人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty: TKA)
・遷延性疼痛(chronic persistent surgical pain:CPSP)
・疼痛のメカニズムや各時期に応じた介入が必要である。
TKA後の疼痛の発生するメカニズムから、周術期の疼痛管理については主として行われる関節周囲浸潤麻酔療法、末梢神経ブロックを解説している。
次に、急性期、回復期、慢性期とそれぞれの時期における疼痛の要因、またその時期に適した理学療法を筆者の経験を踏まえて紹介している。
〇急性期
急性期の疼痛の要因は手術による侵襲、組織の損傷、炎症といった侵害受容性疼痛と筋スパズムなどの運動器性疼痛が大きく占める。そのため、急性期では炎症管理、筋スパズムの軽減に重点を置いた理学療法が望まれる。
〇回復期
術後2週~3ヶ月程度の期間を回復期としている。急性期でもみられる侵害受容性疼痛と運動器性疼痛に加えて、痛覚変調性や神経障害性、心因性といった疼痛の割合が増えてくる。創部や腫脹部位の癒着、筋の滑走の改善が必要な時期である。
筆者の経験では、創下部や弾性ストッキングの圧迫部位などが癒着しやすい部位である。また、在院日数の短縮化が図られる中で、退院後の疼痛管理が課題となる。
〇慢性期
運動器性疼痛や神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛、心因性疼痛など、様々な要因が関わってくるCPSPは、QOLにも大きく影響するためケアが必要である。
慢性期の疼痛では、うつや運動への恐怖心など、心因性の疼痛が大きく関与してくると先行研究からも言われている。運動療法と認知行動療法を併せて実施することで疼痛改善が期待できるという報告も多い。
TKAの件数は高齢化に比例して年々増加しており、年間約10万件施行されている。術前から術後まで介入する上で、疼痛は運動療法が進まない、機能改善の妨げとなる、患者の満足度やQOLの低下といった問題を生じる大きな要因となる。
疼痛のメカニズム、時期に合わせた適切な介入ができていないことでも、疼痛の増悪や長期化の原因となってしまう。疼痛のメカニズムを理解し時期に適した介入を行うこと、さらに術前から術後と一連の疼痛管理を行うことで、より効果的な除痛が期待できる。
記事:ながちゃん