介護、地域包括ケアへの影響
橋本康子
JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION
第32巻・第5号(通巻382号)・2023年5月号 P453-460
Key Words:寝たきり防止、医療と介護のシームレス化、チームリハビリテーション
高齢化率が35%を超え、高齢社会が進行する中で課題となっていることは寝たきりをなくすことである。これは医療介護施設でみられている。
この要因は
①医療介護のシームレス化が進んでいないこと
②アウトカム志向の仕組みがないこと
③各専門職としてのスキルが活用されていないことである。
以上の問題に対して各専門職がチーム医療として連携し、ADLに限らずIADLの実現に向け、利用者とスタッフの双方への情報共有が必要である。
今後の課題としてリハビリテーション療法士によるリハビリテーションのみではなく、看護師、介護福祉士による日常的なケア等で専門スキルが活用されることが、寝たきり防止の効果が生まれる。このため各専門職で構成されたチーム全体が寝たきりにしないという目的共有が重要であり、そのためのスキルの習得が必要である。
Ⅰ.はじめに
2040年には高齢化率が35%を超えることが予測され、リハビリテーションの役割が重要視されている。
寝たきりや寝たきり予備軍となる要介護4及び5の高齢者が増加しており、これにより医療・介護費の増加、介護による離職率の向上が考えられる。そのため「寝たきりを無くすこと」が医療・介護従事者に求められる。
Ⅱ.何が問題か
介護分野での問題鐵は以下の三つである。
①医療介護がシームレスに連携していない
近年の医療介護サービスは、機能分化が進み、1人の患者・利用者に対して複数の医療機関や介護施設が関わる形となっている。これにより各期での強いかかわりがいかせて活かせている。しかし患者・利用者の情報やケア内容が分断されているケースも少なくないため、シームレス化が進んでいない。
②アウトカム志向の仕組みがない
介護サービス・事業所のおよそ半数は民間企業の運営となっている。民間企業の参入による接遇サービスの向上や効率的な運営は、各企業のノウハウが活用されている。しかし、寝たきりをなくすリハビリテーション医療のノウハウを有する企業等は少ない。リハビリテーション医療とともに、介護報酬によるアウトカム誘導を仕組みを作っていく必要がある。
③専門職としてのスキルが活用されていない
臨床場面でのアウトカムは、インセンティブやスタッフのやる気だけでは生まれるものではなく、チーム医療としてかかわる専門職のスキルを活かし高める必要がある。
Ⅲ.リハビリテーション医療のかかわり
リハビリテーション医療の真髄は医療と介護が連携し、患者・利用者のアウトカムのために、各専門職によって構成されたチームがスキルを発揮することにあると考える。これを体現しているのは回復期リハビリテーション病棟である。しかし病棟でのリハビリは非日常的な空間で行われている点において大きな欠点となる。
これに対して在宅等で行う訪問リハビリテーションは、その人の生活場面に即した介入が行え、利用者とケアスタッフ間で目標を共有でき、寝たきり予防の動機づけとなる。
Ⅳ.今後の対策
筆者の法人では「在宅入院」という取り組みを行っている。これは「回復期リハビリテーション病棟を早期に自宅退院する」「自宅で入院中と同じ量のリハビリテーションとケアを訪問し提供する」「回復期リハビリテーション病棟入院中と同等の改善を果たし、社会復帰を図る」というものである。
これまでに述べてきた問題点に対し
①には病棟入院中に担当したリハビリーション療法士が在宅でも訪問し引き続き介入を行う。また筆者の病院の持ち出しであるが、1日3時間のリハビリテーション科移入時間を確保することでシームレスとなった。
②かかわるスタッフが回復期リハビリテーション病棟スタッフであり、患者を良くするという点でアウトカムを図ることが根付いていた。
③は看護・介護のかかわりでの大きな発見により介護領域でも活かせる点が見つかった。
以上のことは現在の保険制度上では、手厚くできないこともあるが、専門職のスキルを発揮することが、寝たきり予防を含めたそれ以上の効果を発揮するという考えになるのではないでしょうか。
Ⅴ.リハビリテーション医療の果たす役割
日常生活場面で看護師、介護福祉士、療法士がかかわることでADLやIADLに密接な介入ができることが考えられ、療法士による介入だけではなく、看護師、介護福祉士による毎日、毎回のケアにあたることもリハビリテーションの確保となることが期待できる。以上のような取り組みを拡大、加速していくことで寝たきりの高齢者をなくす役割を担うのではないだろうか。
筆者の法人で行う「在宅入院」では早急に自宅退院後も回復期リハビリテーション病棟入院中と同量の介入を行うことで入院中と同等のFIMの改善が図れており、なおかつ日常生活場面で行う点において本人の意欲や、その人らしいIADLに即した介入となる点いおいて寝たきりをなくすことができる取り組みであることがわかった。
昨今は少子高齢化の流れを鑑みて、診療報酬改訂が行われており、リハビリテーションの包括化が進んでいる。本稿の内容もより地域で元気な高齢者がその人らしい生活を送れる時間をなるべく長く支援できるために考えて取り組んでおり、療法士のみではその実現は難しいと私自身は思っている。他職種との意見交換や、情報共有する意識を持って明日からスタッフとコミュニケーションを取ろうと思います。
記事:本多竜也